Brilliant Grunt

各種作品の感想、批評。或いは、ただのメモ。

映画『トッド・ソロンズの子犬物語』ネタバレ感想と深掘り考察|ブラックユーモアで描かれる命と現代社会の風刺

ストーリー

 闘病中の息子のため、ダックスフントを買ってくる父親。母親は嫌そうな顔をしつつも、不妊手術を受けさせようとするが、息子は反対し、犬を逃がそうとする。

 息子を説得するための母親の話がひどい。昔、犬を買ったがモハメドという野良犬にレイプされ、妊娠して死んでしまったというのである。しかも連続レイプ魔で、リスまで襲ったという。一体お前は何を言っているんだ。

 ともかく、両親が出かける日、少年と犬ははっちゃけて、家をめちゃくちゃにしてしまう。さらに、少年がブロック栄養食的なのを食べさせてしまい、下痢。家がクソだらけになってしまうので、父親は犬を安楽死させに病院へ連れていく。母の少年への説明「安楽死の気持ち?とても気持ちの良いものよ」もうためだこの両親。

 病院へ連れてこられた犬。闇を抱えてそうな女性スタッフが犬を連れ去ってしまい、コンビニでドラッグ常習犯的な顔をした男友達に会うと、彼と一緒に逃避行。
 犬はドラッグの弟とその彼女に譲られるが、ここで実はドラッグが本当にドラッグをやっていたことが判明する。
 父親がアルコール依存症で、
一旦は酒をやめたものの、再発して死んでしまったという暗示もあり、闇スタッフとドラッグがこの先幸せになるビジョンが見えぬまま、次の飼い主へ。
 
 ここで映画館の客に配慮した小休止が入り、本編に戻ると飼い主が変わっているという衝撃の展開。それについての物語が明かされることはついにない。

 今度の飼い主は、映画学校の教授。生徒たちには人気が無く、蔑まれている。新たな脚本を書いて映画会社に送るが、ムシャクシャした教授は事件を起こす。

 次の飼い主が最後である。隠居している老婆で、そこへ孫娘が彼氏とともに遊びにくる。彼氏は前衛芸術家で、作品には動物の死骸を使ったロボットなどがあるという(フラグ)。
 どうでも良いがアメリカにもDQNネーム、もといキラキラネームはあるようだ。彼氏の名前はファンタジーで、その妹はドリー厶というらしい。

感想

 風刺のきいた喜劇、と説明にあったが思っていたのとは違った。犬好きやファミリー向けではないので注意だ。最後にとんだブラックジョークをかまされる。
 少し退屈ではあったが、最後に目が覚めた。

考察

 ところでこれは何を風刺しているんだろう。

 ・犬を簡単に殺処分しようとする親

 ・教授に敬意を払わない学生たち、一方で、ムシャクシャして事件を起こしてしまう教授。

 ・前衛芸術家が犬の遺体を使ったロボットを制作しようとする場面が描かれる。ここに見られるのは、「芸術とは何か」「命とは何か」という問い。命をもてあそぶかのような芸術家の振る舞いは、命そのものの価値を軽視する現代社会に対する強烈な風刺だろうか。

 ・ドラッグ弟から教授へ犬が渡る過程が描写されないのはなぜか。何があったのか。
 弟と教授のつながりは推測できる。弟はダウン症と思われるし、教授は激しい運動を拒否したことから、なにか障害を抱えている可能性があるからだ。
 弟とその彼女が犬を手放したのは、妄想するしかないが、前の飼い主にヒントがあると思う。
 つまり、対比になっているのである。犬に不妊手術を受けさせる前の少年のセリフで「もしこの子が子供を望んだら?」それに対して母親は「そんなこと犬は思わない」と言う。少年は犬を逃がそうとする。結果的に犬は手術を受け(たと思われる)、安楽死させられそうになるが、スタッフの女性が犬を連れ去る。
 かたや、ドラッグの弟とその彼女はダウン症で、二人とも不妊手術を受けている。そう、二人は子供を欲したのである。しかし、それは叶わない。その結果、心中あるいは逃避行をしたのである。
 どちらかというと、心中したのではないか。なぜなら、一貫して作品には「死」のテーマが漂っている。犬は安楽死の瀬戸際に追い込まれ、登場する人物たちもどこかしら「死」を意識せざるを得ない状況に直面している。特にドラッグ依存の弟と彼女のエピソードでは、彼らが「不妊手術を受けたカップル」であることが示され、命を繋ぐことができない悲しみが暗示されている。